『復活の地』読了

小川一水『復活の地』1・2・3 11月22日読了


「水」がつく作家さんが多く、よく混同してしまうのだが、この作家さんもその一人。
「まあ」おもしろかった、という先に読んだ家の人の評価、アニメ風挿絵、しかも全3巻。
出だしからして、いかにも、のお姫様が侍女と優雅に出てきて、数ページで読む気を無くし、
しばらく、他の本を読んでいる時が続いた。


でも、電車に持ち込むと、ほかにすることがないので読んでしまう。
首都が壊滅する。
そして出会う世間知らずの高貴な少女、それに対しつっけんどんな男。
お互いに反感を抱く。…うむ、第一印象はサイアクで、
でもさっさと復興したあと徐徐に惹かれあって、くっつくっちゅーパターンやろ、と。


しかし、首都はなかなか復興しない。


王族と政府、中央と地方、通常の組織と災害対策・復興に向けた臨時組織、
さらに政府と民間企業・民衆の利害の衝突があり、民衆同士の中でも多数民族と少数民族の関係があり、
さらにそれに対して立ち回る諸外国の動き。それが災害直後から相互にからみあい、
表向き・裏向き、直接的・間接的なかけひきが繰り広げられる様子が
さまざまな人物の視点を借りて、微に入り細に入り執拗に描かれる。


そして一巻を終えた時点でまだ災害復興は終わりそうになかった。
ここに至り、私は最初の偏った先入観を捨て去り、完全に物語にひきこまれてしまった。


まあ、トップ同士の男女が心理的に微妙な関係になってきたとき、定番のごとく、
お互いのサブの男女が簡単にくっついてしまったことには舌打ちしたが、
その2人も、身分的には王族の侍女の方が偉そうなのに、家柄としては
男の方が格別によい、という背景が描かれ、また最初のうちは無能なのにえばる
ヤナやつの代表みたいに描かれていた帝都の都令が、侍女のお父さんとして描かれる時は
ええ感じになってきたのがよかった。(この人はあとで政治的にも少しずつ変わってくるしな)


まあ、都令より巨悪があったので、このおっさんが完全に悪役にならんでもよかったということか。
悪役は、最後には邪魔もんはいらんとばかり、まとめてさっぱり死んでしまったが、
これはもうひとひねり欲しかったなと思う(亡命してしぶとく現政府の転覆をうかがうことを示唆したりとかさ)


でも、けっきょく主人公の男女が安易にくっつかんところがよかったし、
このお姫様も、なんやかや言いながら、回を追うごとにすごく利口に、勇敢に、
果断に立ち回るようになってきたのが、胸がすくような思いがした。
洪湖赤衛隊の韓英じゃないけど、そういうかっこいい女性に、やっぱ同性として
あこがれるところもあったのかもしれない。


男の方も、最初はほんとうに痛々しいほど頑張っていることが伝わってきたけど
でも、作者はそれを完全な善・素晴らしい英雄としては描かない。
後に、自分の思いと、民衆の乖離が伝わってきて、彼なりに自分のあり方を
見直していく過程がある。そこのところも、とても好感が持てた。


ほんと、最終的には「まあめでたし」というか、辛口の人ならちょっとご都合主義?てな
感想を抱くかもしれない終わり方だったけど、でも個人的にこういうラストは嫌いじゃない。
読後感が悪いよりよっぽどいい。私の中ではとても高評価になった。さらに、
この物語の舞台となった世界の歴史や現状、それぞれの星系のあり方など、この小説だけで
終わってしまうのはほんとうに惜しい気がした。この災害の前後を含めた、この世界の中の
古今東西の物語を、この国だけでなく、諸外国(星?)の物語を含め、
もっともっと読んでみたい、知ってみたいという強い思いに駆られたのだった。


同時に、只の物語ではない、非常時における自分のあり方、地方の、国のあり方など、
現実に即して、ほんとうに考えさせられたということもある。
それは、巻末の参考文献をずらっと見たら一目瞭然だ。
これは、架空の設定を借りたものとはいえ、関東大震災阪神淡路大震災、その他あらゆる
現実の災害のデータをもとにした、一種の壮大なシミュレーションなのだ。


だから、もしかしたら、実際に大震災の渦中にあって、大切な人や大切な思い出を
奪い取られた方々にしたら、この小説はなまなましすぎて、読むのがしんどいかもしれない。
私は大阪市内に居て、ひどい揺れを感じたものの、実際には被害をうけなかったし、
震災直後の爪痕が残る現場も見ていない。だから、逆に考えさせながらも、
物語にひきこまれていくことができたのかも、とも感じたのだった。


復活の地 1 (ハヤカワ文庫 JA)

復活の地 1 (ハヤカワ文庫 JA)

復活の地 2 (ハヤカワ文庫 JA)

復活の地 2 (ハヤカワ文庫 JA)

復活の地〈3〉 (ハヤカワ文庫JA)

復活の地〈3〉 (ハヤカワ文庫JA)

(コミックス版もあるようだ)



●2010.12.15追記
タモリクラブの田中賞受賞橋特集に、「帝都復興院」のテロップが出てくる。
帝都復興院ってほんまにあったんや、とびっくりした。