「迷惑」発言の波紋

2010年2月9日朝日新聞夕刊
 検証 昭和報道205 文革・日中復交・8 「迷惑」発言の波紋



かつて、日本側が戦時中の中国に対する行為を謝罪する際に、
中国側に「迷惑をかけた」というのを、通訳が「麻烦」という
軽々しい語感の語を使って訳し、中国人民が激怒したとかいうようなことを
なにかの折りに知ったが、それについて、上記連載記事に、
ことの顛末が書いてあったので、メモしておきたい。


***

1972年9月29日、田中角栄が訪中し、周恩来の尽力のもと
日中共同声明が宣言された。


先立つこと数日、9月25日夜の歓迎の宴で、周恩来のことばに
こたえるかたちで、田中角栄が「中国国民に多大なご迷惑をおかけした」
と反省の意を伝えた。


その文書が、日本外務省の用意した訳文では「麻烦」とされていたらしい。
そう訳された瞬間、拍手が途絶え、中国側出席者から笑顔が消えたという。


記事では、女性のスカートに水をかけた時のおわび程度の軽い中国語だった、
と書いてあるが、個人的には、もっともっと軽いような気がする。


しかしまあ、外交というものすごく大事な場での翻訳ならば、
どうしてもっともっとつきつめて考えなかったのか、という気もするし、



あるいは、こんな場合の翻訳は、語学的には超・超一流の方が担当するだろうから
(ロシア語における米原万里みたいな)、中国の人にはどう受け止められるか
十分すぎるほどわかったうえで、それでも深刻な謝罪ととられて、国内の
異なる考え方の人々を刺激するような事態を招くことを回避したのか
(たとえば米国駐日大使の広島原爆忌出席にまつわるあれこれに見られたような…)


一庶民には分からないことだが、第2外国語でも学ぶような基本的な語と
外交というシビアな場面で引き起こした事態の深刻さとのギャップが興味深いと思った。