能のおもて

能のおもて

能のおもて (1976年) (芳賀芸術叢書)

能のおもて (1976年) (芳賀芸術叢書)



なんでこんな本を買ったのか。たぶん古本やさんでだと思うけど、読みはじめてからしばらくは分からなかった。


さまざまな能面の写真、あるものは静謐で、あるものはすごく恐ろしく、愉快なものもあり、寂しいものもある。


そのなかに菊慈童の面があり、そこで思い出した。
確か学生時代、本かマンガかなにかで中国の菊慈童の話があり、それが日本の能楽になっていると知って、いったいどんな面だろう、とこの本を買ったのだった。


菊慈童全文
http://csspcat8.ses.usp.ac.jp/users/nougakubu/tan7-zenbun.htm




後ろの方にいろいろな解説がついていたので、それを読んでから処分しようと思い、寝る前に少しずつ読み進めていった。すると(菊)慈童は能面の体系でいうと「男面→若年面」のカテゴリで、「若年面」の「人間系/妖精系」の2種の妖精系に属するらしい。妖精系にはさらに童子と慈童の2系統に分かれ、解説によると「慈童の方が額が丸く、やや異国的な美しさを持ってい」るそうだ。



この解説で面白かったのは、表情が動かない能面になぜ感情が表れるか、という点について、小面と般若の2つの女面を、正面、斜め上、斜め下から撮った写真が載っていたことだ。斜め上から撮ったものは「面を曇らす」、斜め下から撮ったものは「面を照らす」といい、その表情があまりにも異なることにびっくり。目にあいている穴の切り方や、やや受け口になってること、また般若は眉のところがすごく飛び出していたり、しわなどの陰影による効果ということだった。さらに

男の、たとえば鬼の面などは、恐ろしくはあっても長時間の演技に耐えないのに比して、般若の面がそれに耐えるのは、複雑な変化のある表情を生き生きと間断なく見るものに与えるからです。

とあったのには感心した。能面は、ほんとうに芸術、芸能の方面から、実に考えぬかれて作られたものだったんだ。これは世界的にみてもすごいことなんだなと思う。