くらやみクッキング

きょう夕食の支度をしているとき、ふと思いついて、台所の電気を消した。それは、なんかの拍子に、全盲の鍼の先生の話を思い出し、その連想から、なんとなく「やってみよう」という気になったからだった。



外はまだ薄ぼんやりとした明るさが残り、共用廊下の照明も少し入ってくる。その明かりのみを頼りに、野菜室から野菜を出し、皮をむいて切っていく。


包丁を使うときはやや慎重に。とはいえ、完全に真っ暗闇というわけではないのだが、たとえば台の上にお皿をおこうとしたら皿がかたむき、布巾かわりのぼろ布がそこに置いてあることに気づいたり。そう、目が不自由な場合、その場所をいちいち手で触って確認するのでない限り、自分の記憶だけでその場の光景を再現しなくてはならないのだ。さっき置いた布のことを忘れたら、その布は(私の意識内では)存在しないことになる。


なんとか材料を切り終わって、ガスをつける。すると青い光が台所いっぱいに広がった。「ガスが明るい」という認識は普段ないだけに、その光はとても印象に残った。


味付けはいつも適当なので、ぶんぶんフライパンにほおりこむ。ガス同様、冷蔵庫をあけるたびに台所に鮮烈な光が差しこむ。もし室内の明かりがあるなら、庫内はこんなに明るくなくてもいいんじゃないか、と思ってしまう。


そして、暗闇クッキングはかろうじて終了。あとで食べるとき、野菜が切れてなかったりいろいろしたけど、いちおう、大きな支障はない、ということが分かった。