『時の地図』上下


なんちゅうたらよいのか、SF版「藪の中」ともいおうか。あまりにも時代がかかったSFやなあと思って読んでいたら、私もだまされていたり。なんどもひっくりかえされて、読んでいてくらくらするような感じがした。



いくつかの話がからみあい、ある人物に焦点をあてて語られていたことが、別の人物にスポットがあたると、いままでみていたものがガラリ!と音を立てて様変わりする。


そのなかで、ある貧乏?な若者とおぜうさまとの物語が印象に残ったのだが、これはほんまに、二人ともとっぴょうしもないことをしてどんどんマズい方向に行ってしまうし、その彼の苦境をいやいや救ってやっているウエルズが、そのために手紙を代筆していたのが、どんどん調子にのっていき、しまいには本人が疎外感を感じるほどに盛り上がってしまうのが可笑しかった。この物語は、最後までどうなるか、ほんとうにハラハラさせられたし、終わり方も良かったので、楽しく読めた。




しかし、最初の話に出てきた青年が、一番最後にまた出てきて、狂言回しのウエールズになぞの言葉を言って去っていき、なんかあの話(日本人が書いた探偵モノでちょっとボケた探偵としっかり者の女助手の話かとずっと普通におもしろく読んできたのに最後になってなんかつじつまのあわない部分がでてきて、この話はぜんぶ助手の女の妄想なの?それとも…?とすごく不安をかき立てられた話。題名がどうしても出てこない)やディックの話みたいに、これまでの物語が寄って立つところがぐらりと不安定になるような感じになった。


と思ったら、これまですべての登場人物の遭遇した一部始終を、神のように最初から最後までずっとずっと見通すように語ってきた人物が最後にひょっこりと舞台裏からでてきて長々と最後の口上をしゃべって終わってしまった。


けっきょくこの人はいったい誰だったんだ???