『どーなつ』
ふつうは読了した日付で書くのだが、このマイルールはもう解除しようと思う。ナイトキャップに読んでいたこの本をいつ読み終わったか忘れたからだ。
北野勇作『どーなつ』。表紙の「人工知熊」の印象があまりにも強く、私が書名を間違って『くまくん』と覚えてしまい、以来、これを個人的に本書の愛称とすることにした。本を略称ではなく愛称で呼ぶのは初めてであった(ちなみに、わたしは著者の『かめくん』をまだ読んでいない)。
読み進めるうちに、話が入れ子になっていき、誰が語り手なのか、語り手が何をかたっているのか、語り手の何が(本人が? 本人の記憶をもつ別のものが?)語っているのか、どんどん分からなくなる。でも、分からないものを分からないままに読み進めていくのは得意なので(?)、けっきょく、最後まで分からないまま読み終えた。
ブラッドベリ・ディック・円城塔など、さまざまな書をこのような秘術で「とりあえず」読破するすべを身につけたので、もうこわいものはない。どんなに分からないものでも、ただ分からないというだけにすぎないのだから。
ただし、ディックの“ヴァリス三部作”は別。あれほど読むのが苦痛だった本はない。ただ機械的に文字を追うのが精一杯で、読書があんなにしんどいとは思わなかった。あれに比べると、他の本がどんなに難解でもマシに思えるようになり、いまではあの本に出会えたことをとても感謝している。
で、なんかの書評に、北野勇作の本(この本か別の新刊か忘れたけど)を表して「ディック的なうんぬん」とか書いてあって、その「ディック的」なものがなんであるのか、私にはなんとなくしか分からないけど、でも個人的には、『くまくん』は「ディック的なうんぬん」よりもっとほんわかとした、ほのぼのとした感じじゃないかな、と思った。それは、会話やストーリーのそこここに、関西弁とか、上方落語とか、そういうのがちらちらっと入ってきて、のんびりとした空気をかもしだすからじゃないかなと思う。
ただし、一つだけ残念なことがあったので、最後にもの申しておきたい。
第何章かまで読み進めたとき、ふと「この次の章の扉絵は表紙の絵の一部分をトリミングしたものではないか?」との考えがよぎった。そこで、その章を読む前に、パズルの一片を探すように表紙をくまなく眺め、ほどなく、その部分を見つけ出した。
じゃあ前の章の扉絵は? その前は? と、どんどんさかのぼっていき、第1章まできたのだが(おもえば田中啓文の本でもそんなことをやっていたな…)、第1章の扉絵にあたる部分が、いくら探してもみつからない。表紙カバーが折れているので、そこを広げてさらにくまなく探したが、やはりみつからない。
だいぶたって、第1章の扉絵を印象づける街灯の電球部分が、「どーなつ」の「な」の字の下に隠れていたことに気づく。そうやって、ものすごい時間を浪費してしまったのだ。
そういうアホ読者のために、カバーデザインにはぜひ心を配っていただきたいと思った次第である。
以上。
- 作者: 北野勇作
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↓あ、こっちの表紙の方がカワイイ。
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↓この本の記憶(題名のみ)が私の無意識下で『くまくん』なる愛称を呼び寄せたのだろう。
- 作者: 北野勇作,前田真宏
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