幻想即興曲

職場に行く途中、OCATを通ったら、
ショパンの幻想即興曲が聞こえてきた。


あれ、これBGMじゃない・・。
生ピアノの音だ!


吸い寄せられるように音源に近づくと、
宝くじドリーム館のランチタイムコンサートだった。


急いでいたけど、この曲だけ、と決めて
しばし、ピアノの音に心をゆだねた。


室内に入った時にもらったチラシを見ると、
奏者は白石光隆というピアニストの方だった。
チラシの写真は白い蝶ネクタイ姿なのに、
目の前のご本人は、アロハのようなビビットな柄のシャツを
タイトな黒スラックスにインしていた。


***


しかしまあ、なんとかろやかに弾くものだろう。


高3でピアノをやめ、この曲は中途半端なままで終わってしまった。
だから、私はひきつづき大学の大教室のグランドピアノで練習し
(教室が空いていたとき申請すればピアノをひくことができた)
留学先の寮に付設していた集会室の古いピアノで練習し
仕事先でときおり練習しつづけた。


進学の時に持ってきたはずの譜面は、いつのまにか無くなってしまった。
だから、耳と、手の記憶を頼りに、音をたぐっていきながら
同じパッセージを、ゆっくりと、なんどもなんども繰り返す。


しかし、いくら練習しても、その結果が蓄積することはない。
指は加速度的に動かなくなっていく。
それもそうだ、ピアノをやめてもう20年以上もたっているのだから。


なんだろう、私にとって、これは練習というよりは、
ピアノをひきながら過去の思いを再生しているような感じだった。


そんな思いを反芻しながらきらきらと光るピアノの音色にひたっていると
とうとう、白石さんが最後のアルペジオの1音をひきおえた。


拍手をしながら、からだをひるがえして仕事先へとダッシュした。
次の曲が背中から聞こえ、やがて、遠ざかった。


少しだけ、リフレッシュできたような気がした。


●あ、CD出してはるんやな。
これはベートーベンだけど↓

ベートーヴェン:ピアノソナタ集

ベートーヴェン:ピアノソナタ集