のりまちがい

久宝寺って、東西方向の路線しかないと思っていた。天王寺に行って環状線に乗るつもりで、しかも予定時間より早くついたので、ちょっと余裕をかましていた。


天王寺行きのホームには、普通と、それと表示に色がついている列車が止まっていた。あ、快速かな、と思い、あまり確かめずにそれにのった。天王寺行きのホームだ。どっちにしろ、西に進むと思いこんでいたのだ。すいている車内(この時点で怪しむべきだった)でどさっと座り、本を読み始める。やがて、電車が動き出した。次の駅についた。なんか聞いたことがない駅名だ。あ、快速じゃなかったのか、でも、予定より15分も早く出発したのだから、各停で天王寺行きでも大丈夫か、と、また本を読み始める。


数駅過ぎて、さすがにおかしいと思い始めた。窓の外を見ると、なんか田舎である。これはおかしいと思い、立ち上がって車内の路線図をのぞきこみ、さっき止まった駅名を探す。久宝寺天王寺の間に、そんな駅はなかった。そして、久宝寺からは、北に向かって別の路線が通っていたのである。もしかしてコレと乗り間違えた…? 心拍数がいきなり上がり始める。さっき通り過ぎた「JR河内永和」は、まさにこの「おおさか東線」の駅であった。とりあえず、次の駅であわてて降りる。高井田中央という小さな駅だった。今まで乗っていた列車が私を残して静かに動き出すのを呆然と見送る。列車の行き先表示には「放出」と書いてあった。


なぜちゃんと確認しなかったのか、なぜもっと早く気づかなかったのか、自分を責めても責めきれない。さっきまで余裕をかましていた自分を恨んだが、とにかく、ここからいったいどうやって目的地にいけばいいのか。ガランとした駅のホームで、必死にガラケーの乗り換え案内を検索。地下鉄の乗り換えルートが1本見つかった。でも、もう発車まであと1分という時間で、しかも初めての駅で土地勘もない。絶対間に合わないと思った。もう1つのルートは、とにかくこのまま久宝寺に戻り、それからJR難波行き普通にのり、新今宮で乗り換えるというもの。そのルートだと、目的地の駅について、徒歩15分の道を10分でいかなければ間に合わない計算だ。走ることで徒歩での時間をどのくらい短縮できるのかわからない。ぎりぎりで大丈夫なのか、それとも、いま先方に遅れると連絡して謝るべきか。とにかく、目的地の駅についてから電話して、あとは死ぬ気で走ろうと覚悟を決めた。


久宝寺まで戻る列車がやっときた。本ももう読む気が起きず、ただただもんもんとした。列車はだらだらと、もどかしく一駅ずつ止まり(当然だが)、来た道をもどって久宝寺に近づいた。すると隣のホームに大阪行き大和路快速のクリーム色の車体が止まっているのが見えた。その向こうに私が乗るはずの普通列車も見える。止まっている快速はもう出発するのだろう。しかし、ドアが開くやいなや、周りの高校生風の若者達が猛ダッシュをかけた。うそ、あれに乗るつもりなの? しかし、私も一縷の望みをかけ、祈るような気持ちで彼らと走り出した。階段で足がガクガクするが、必死でついて行く。陸橋を渡る間、ベルが鳴り響いているのが聞こえる。高校生たちはそれでも走り続け、階段をものすごい勢いで降りていく。電車はまだ居てる! 高校生がわあきゃあ言いながら無理矢理飛び込んだ。私も一緒に飛び込んだ。自分の真後ろで扉ががしゃんと閉まった。


間に合った…。天に心から感謝した。見知らぬ高校生たちにも感謝した。彼らが走らなければ、私はあきらめていただろうからだ。