買い物ついでに散歩をしていたら、留学前にずっとお世話になった先生の奥様とばったり会った。というか、私はぼーと歩いていて全く気づかなかったのに、自転車に乗った奥様が私のことをみとめて、わざわざ声をかけてくださったのだ。


先生の事務所があったマンションは改修が始まり、かつての場所には「貸事務所」の貼り紙があった。いつか先生の命日に行こう行こうと思いつつ、何年も先延ばしにしていたあげくのことだった。ああ、もう挨拶する機会を完全に逸してしまった、と、まさに「後悔先に立たず」の状態であった。


そんなときにこの偶然の邂逅。しかも、ふだんはお散歩は夕方にするのに、家の人の意向で今日だけたまたま、正午前後のいっちゃんクソ暑い時にわざわざ出発して、それだからこそ、お教室の帰りの奥様とばったりあえたのだった。


ほんと、奥様が元気でいらっしゃるだけでもほんとうに嬉しかったし、一方で、声をかけられて一瞬誰か分からなかった自分の記憶力の弱さに情けなくなった。


***


こんな出会いもある一方で、散歩途中のいくつかあるねこだまりで、足をだらんと伸ばしてだらしなく寝ているねこに近寄ったら、やたらにゃーにゃー言うから、じゃますんなと言われてるのかなあと思いつつ、でもちみっと触りたいという気持ちがむくむくとわき上がって、もう一歩近づいたら、これまでより明らかにひときわトーンをあげて「にゃ〜」と言った。
あっ、やつに心を読まれてもうた、と思った。