『ユダヤ警官同盟(上下)』読了

マイケル・シェイボンユダヤ警官同盟』読了。


とにかく、最初は取っつきにくかった。
が、新任の上司として別れた元妻が赴任してくる、っていう
絵に描いたような状況になってから、がぜん、おもしろくなった。


というのは、刑事物によくある、クールでかっこいい造形の主人公じゃなく、
(まあ最初からうらぶれたところに住んではいたけど、やがて)
男のだめだめぶりだとか、アホさだとかが出てくるようになると、
だんだん、主人公がかわいげがあるように見えてきたのだ。


(男のかわいげ、ってことば、田辺聖子さんがよく使ってらっしゃったように
記憶してるんだけど、可愛い男、というとまた意味が違ってくるし(?)
いい言葉やな、と思う。)


そうなってくると、彼のえもいわれる寂しさなども、共感できるようになってくる。


そして、そのダメぶりをほほえましくみていって、
やがて最後の方で、ふと男らしさをかいまみせられると、
最初からかっこよさな造形の主人公より、ずっとずっと、
ホンマらしいかっこよさを実感することができるのだ。


***


題名にもあるように、本書の主人公はユダヤ人であり、
その活躍する舞台もユダヤ人社会であるのだが、これほどまで、
ユダヤ人たちを、身近な存在・近しい人間(悪態もつき弱音もはく)として
感じたことはなかったなあ、と思う。


さらに、ユダヤ人らしくない主人公とペアを組むのが、少数民族出身の、でも
自分はユダヤ人だと固く信じ、きまりをより厳格に守って暮らしている人なので、
彼を通じて、さらに、ユダヤ人の多様性が浮かび上がってくる。


というか、私は途中まで、この設定が知られざる史実だと思って読んでいた。
ふーん、こんなとこで、こういう居住地があったんか、初めて知ったわ〜という感じ。
で、上巻の途中で、私がこの本を読んでいることを知った家の人が、
「歴史改変SF」だということを言ったので、驚愕したのだった。


そういえば、ヒューゴー賞ネビュラ賞ローカス賞、三冠制覇!と
帯にでかでかと書いてあったが…。これから、なんかSF的なことが
始まるのかな〜とかボンヤリと考えていて、まさか、自分が感心した
この設定自体が、SFとは思わんかった…。
(ここに、「がくっ」という感じの絵文字をいれたいところだが、どう入れるかわからない)


そういう間抜けな読者も十分に楽しめる傑作でした!!



ユダヤ警官同盟〈上〉 (新潮文庫)

ユダヤ警官同盟〈上〉 (新潮文庫)